運ばれてきたザルうどんを見てびっくりした。
 温かいものは期待していなかったけど、これは想定外の盛り付けで定番のザルにこんもり盛ったうどんの四隅に氷がデンとすえられていたではないか。外は寒風が窓をたたいている冬のまっただなか、これは酔狂がすぎるのではないのか、友人と顔をみあわせて「おヽ、NO」とは言わなかったがびっくりこいたのは事実だ。周囲のお客さんも箸のうごきを止めて好奇心の眼をなげかけている、よく吟味せずに注文した自分があさはかなので、ここは食べるしかない、真夏のザルでも氷に囲まれたものはいままでにないのに。
 さも美味そうに音をたてて咽喉を通したもんだ。
 「うまかったか?」
 「まあまあだ、だけどもがりぶえを聞きながら冷やっこいザルを食べたのははじめてだなあ」
 熱いコーヒーをすすり、ひといきついて再び雑談にふけってから腰をあげた。

 小母さんウエィトレスは空いたテーブルで帳面ずけをしていて「おあいそ」と言うとふりむいて「レジへ」という、レジでは白髪のお婆さんが座っているにはいるがうとうと舟を漕いでいて「起きて」の小母さんの怒鳴りで鳩まめくったように目を覚ます、大丈夫かいななどと思いながら伝票と一万円を渡す。
 案の定つり銭は3500円、「ちがうちがう、一万円だしたよ」とレジスターの札を指して確認してもらう。
 ザルといい、うたた寝といい、春が近い椿事だ。
 

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