prose-慣性

2012年5月28日 趣味
 現役引退して自適な生活をしておられる人と席を同じくして珈琲を飲みながら四方山話して時間を過ごした。
 趣味などという洒落たものは持ち合わせていない、という。
 「無趣味」も趣味のうちですよ、応えると、
「いやぁ、一日中新聞を読んどるんじゃ」と満顔薄笑いでちょびっと珈琲で咽喉を潤した。それから油紙に火をつけたように喋りだした。
 一面から24面までくまなく、最後のTV欄まで活字という活字をすべて読飲、下段の週刊誌、月刊誌、新刊の広告をそらんじ、ドサッと挟まれているチラシまで舐めるように読むんだ、そうだ。まことに面白くてかなわんそうだ。
 でその蓄積した知識をなにかに活かすのかと思えばさにあらず、夕餉の時は「忘却の彼方」になるそうで頭の滓にもならないとか。
「へエ~」感嘆した。それはたぶん卓越した知識欲ではなく、活字の数をカウントして満足するタイプじゃないんかと上目でうかがい、それにしても挫折しない根気と慣性には敬意を表したい、などと思った。
「何紙もとっているんですか?」
「いやぁ一紙のみ、それも地方紙だけ」
「他紙と読みくらべしてごらんなさいよ、たとえばニッケイとか、株式欄がたっぷりあるから読み応えするじゃん」
 するとその人は右手の親指と一差指で〇をつくり、
「ない」と言った。
 


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