prose-好きこそものの戯びなれ
 雲間の陽を浴びるべく河川敷を歩く。風は一時ほどでないにしても強く冷たい。
 土曜日なのでテニスコートは若いプレーヤでいっぱい、黄色い声が飛び交う。声を追い風に河川敷の堤を下ると、やはりカワセミの追っかけが三々五々みうけられる。フリーハンドで撮る人はいない、大きな三脚に今流行の望遠レンズをセットして虎視眈々狙っている。
 水没している護岸の石積に一本の枯木が、不思議なことに石の合わせ目につきたてられていて、小石をつめこみ倒れないようにしている。なにかに知恵をしたがる誰かが冷たい水に入ってわざわざ差し込んだにちがいない。
 その木の上に、カワセミが停まり羽を休めていた。撮影アングルには絶好だろう。層の厚い雲がかかると開かれた空間でさえ陰影を濃くしている。宝石といわれるカワセミもそれとながめればブルーをおもわせるが瞬間的には黒い鳥でしかない。それがかえって宮本武蔵の「枯木鳴鵙図」の雰囲気がでている。
 奥さんが荷物持ちの高齢夫婦がカメラをかまえており、手前で立ち止まり雑談を交わした。カワセミは人間の意向を介せず突然飛びたつ。対岸に枯れ葦がやぶをつくり延々とのびていてその中へ姿をけした。それっとばかりカメラマンは三脚を担ぎ移動するのである。
 撮影に熱くなった旦那は奥さんを忘れてかってに走りまわり、尻をみせる者と追う者は遊戯のようにみえもしなくはない。
「朝は10人のカメラマンがいたのよ」
 早足をとめて奥さんは振りかえり教えてくれた。つきあいきれない、げんなりした顔であった。今15時、6時間ぐらいとどめおかれているのである。
 憑かれた旦那のすることに否とはいえないのが夫婦なのだ。

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