創作ー刑事転田(どうか、ころんだ、とよんでください)
2011年6月27日 日常「いやあ、よく分かりましたよ社長さん」
転田警部はよれよれのコートをはたいてたちあがった。
「あなたが立派な信念で会社をたて直し社員の幸福を約束したい気持には敬服以外なのものもありませんね。そこいらの経営者に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ、社員は喜ぶでしょうね、きっと、なにせ家族にいままでと同じようにディナーを与えることができるんですから」
彼は卓のブランデーグラスを手にはさんで鼻にちかづけて芳香を嗅いだ。
「おお、たまらない芳醇ですな・・・ところで、うちのカミさんは」
カラマツの林が見渡せられる窓枠に近寄り、しばらく釘ずけにただずんで観察していた。ポケットから手帳をとり出しちびた鉛筆でなにやら窓枠を上目で見ながらメモっていた。書き付けた手帳をびりびり破り外で検証していた相棒を呼んでにそれを渡した。鷹の目つきで入室してきた鑑識は転田警部の指示する窓枠の写真を撮り血液検査の段取りにかかった。
「やあしつれいしました」
振り返った転田警部の顔はもとの惚けた表情になっていた。
「うちのカミさんはね ・・・いつも口煩くいうんですよ私に、外で美味い酒を飲んじゃあいけない、あとで苦味をかならず噛むようになるって、ね。せっかくですがこの酒は飲めないんですよ」
残念でたまらない仕草でグラスをはなし、油気のないボサボサの髪をかきあげ剃り忘れた顎を撫でたのである。
「いやあ失礼しました、で、さっきの続きですがね、うちのカミさんは潔癖症であれやこれや口やかましくいうんです。掃除するのもフロアでも窓枠でも丸く掃くもんじゃあない、なんでも、四角に掃く習慣をつけなさいって娘にしつけしているんですよ。もともと丸いもんだったら、四角に掃くとどうなるんでしょうかね」
指先で窓枠を撫でて、
「ほら、この通り埃が残っているんで、なんとも弁解できなくなりますが、なにかにつけて喧しくいうんで娘も依怙地になって、丸く掃くんです。たまにアカンベーを埃の上に描いてウサをはらしているようですがね、50%は身についた習慣でね、それがまたあなた、意外な証拠をのこすんですな」
「おっとと、社長さんいまさら拭いたってだめでなんです。鑑識が全部処置しましたから、なにキレイに掃除するんなら結構です、スーツの袖でごしごし拭いてもらって結構なんですがね。私たちいなくなってから、気がすむまでおやりください・・・」
「ところで、ここからが肝心な話です。今期想定外の災害が発生したんで、これは天災というべきもなんで人の責任ではないことは明々白々なんですが、その後がいけません。あなたは企業のトップですから椅子に座って全体の動き分析して対策指示すればいいものを自ら前線を飛び回って目先の対策をまるで空手形を乱発するように怒鳴って直接指示されたんでしょう」
「人間おこられていい気がしませんでしょう、凶暴な人ならかっとなってつかみかからんとは限らんでしょう?。第一あなたがそのタイプだったらどうします・・・、陰鬱なドーベルマン、いやあ、明日になったら判りますがね、私にゃあそんな風に思えてしかたがない、社長さんあなた御自分の性格をどう分析されておられるんですかね?」
「みかねた、というより次期社長の座を窺う専務さんにとっては絶好の機会にみえたんでしょうね、財政立て直しを命題にあなたに辞任をせまった、私どもの調査では公私にわたって再三の圧力があったようですな、そこで」
警部はしわくちゃのタバコを伸ばして指に挟んだまま、
「昨日、専務をこの屋敷に呼びつけて、あることをやってしまった」
「えっ、それ以上聞きたくないっておっしゃる、ははあ・・・ようございます」
タバコを銜え指をパチンと鳴らした。
「人間粘りもよしあしです。明日またすがすがしくお会いしたいもんです」
転田警部はよれよれのコートをはたいてたちあがった。
「あなたが立派な信念で会社をたて直し社員の幸福を約束したい気持には敬服以外なのものもありませんね。そこいらの経営者に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ、社員は喜ぶでしょうね、きっと、なにせ家族にいままでと同じようにディナーを与えることができるんですから」
彼は卓のブランデーグラスを手にはさんで鼻にちかづけて芳香を嗅いだ。
「おお、たまらない芳醇ですな・・・ところで、うちのカミさんは」
カラマツの林が見渡せられる窓枠に近寄り、しばらく釘ずけにただずんで観察していた。ポケットから手帳をとり出しちびた鉛筆でなにやら窓枠を上目で見ながらメモっていた。書き付けた手帳をびりびり破り外で検証していた相棒を呼んでにそれを渡した。鷹の目つきで入室してきた鑑識は転田警部の指示する窓枠の写真を撮り血液検査の段取りにかかった。
「やあしつれいしました」
振り返った転田警部の顔はもとの惚けた表情になっていた。
「うちのカミさんはね ・・・いつも口煩くいうんですよ私に、外で美味い酒を飲んじゃあいけない、あとで苦味をかならず噛むようになるって、ね。せっかくですがこの酒は飲めないんですよ」
残念でたまらない仕草でグラスをはなし、油気のないボサボサの髪をかきあげ剃り忘れた顎を撫でたのである。
「いやあ失礼しました、で、さっきの続きですがね、うちのカミさんは潔癖症であれやこれや口やかましくいうんです。掃除するのもフロアでも窓枠でも丸く掃くもんじゃあない、なんでも、四角に掃く習慣をつけなさいって娘にしつけしているんですよ。もともと丸いもんだったら、四角に掃くとどうなるんでしょうかね」
指先で窓枠を撫でて、
「ほら、この通り埃が残っているんで、なんとも弁解できなくなりますが、なにかにつけて喧しくいうんで娘も依怙地になって、丸く掃くんです。たまにアカンベーを埃の上に描いてウサをはらしているようですがね、50%は身についた習慣でね、それがまたあなた、意外な証拠をのこすんですな」
「おっとと、社長さんいまさら拭いたってだめでなんです。鑑識が全部処置しましたから、なにキレイに掃除するんなら結構です、スーツの袖でごしごし拭いてもらって結構なんですがね。私たちいなくなってから、気がすむまでおやりください・・・」
「ところで、ここからが肝心な話です。今期想定外の災害が発生したんで、これは天災というべきもなんで人の責任ではないことは明々白々なんですが、その後がいけません。あなたは企業のトップですから椅子に座って全体の動き分析して対策指示すればいいものを自ら前線を飛び回って目先の対策をまるで空手形を乱発するように怒鳴って直接指示されたんでしょう」
「人間おこられていい気がしませんでしょう、凶暴な人ならかっとなってつかみかからんとは限らんでしょう?。第一あなたがそのタイプだったらどうします・・・、陰鬱なドーベルマン、いやあ、明日になったら判りますがね、私にゃあそんな風に思えてしかたがない、社長さんあなた御自分の性格をどう分析されておられるんですかね?」
「みかねた、というより次期社長の座を窺う専務さんにとっては絶好の機会にみえたんでしょうね、財政立て直しを命題にあなたに辞任をせまった、私どもの調査では公私にわたって再三の圧力があったようですな、そこで」
警部はしわくちゃのタバコを伸ばして指に挟んだまま、
「昨日、専務をこの屋敷に呼びつけて、あることをやってしまった」
「えっ、それ以上聞きたくないっておっしゃる、ははあ・・・ようございます」
タバコを銜え指をパチンと鳴らした。
「人間粘りもよしあしです。明日またすがすがしくお会いしたいもんです」
コメント