雨天の昼下がり、TVを見ながら長いすに転がって一時うとうと眠ってしまった。
肘掛を枕にしていていたので不自然で不健康なかたちだった.
気道がふさがり聞いたこともないほどの自分の鼾で目がさめた。
 寝入りばなの鼾については、アルコールがはいったときは幾分あるらしいのだが、平常では鼾も寝言も縁がないのでこのような目覚めは実にいやな気分だった。
 話はついでだからいうけれど、鼾と寝言は本人の認識していない時のできごと。録音とられてこれが主のいびきだといわれようが、本人は知らぬ存ぜぬの一徹を今日まで恙なく通してきている。

 入院するとき、個室がいいですか4人部屋でいいですかと、事前にたずねられる。
 自慢じゃあないが、生まれて以来個室をつかったことがないので迷わず相部屋を選択するのであるが、たいてい歳相応のメンバーに組み入れられ多かれ少なかれ鼾の洗礼を受けることになる。
 時としてライオンと猿の混在相部屋になることがある。
 医療専念中の身だから運動行動はあるはずもなく、TV、新聞で気を紛らすも、もっぱら昼寝が仕事往々で、為に、なれぬうちは夜はなかなか眠れないものだ。海老固めの形にベットに寝転んでTV観覧、ゆったりした心地で悦に入っているのだが、消灯の9時ごろには首もだるくなってTV電源を切る。不自然な肢体強制、目に悪いかぶりつき距離、首筋をもみもみこりゃ健康によくない闘病生活だとぶつぶつ独り言を放つ。
 境界のカーテンをひき、つくられた独房の空間で窒息を慄きつつやがて眠りに墜ちるのである。
 むかえる丑三つ時、とつぜん獣の咆哮が闇を裂いてあちこちにあがる。
 だが、どうやらこの咆哮は長くはつづかないとみえる。一定の時間咆えればこと足りて鎮まるのか、咆えて気道が拡張されるのか、やれやれと安堵していると、今度は太くはないが、勘のたつ、鋸の目立てに精出すどえらい歯軋り職人があらわれる。
 それも歯がへたれてか、疲れてか、時計の針の進捗で鎮まるから不思議だ。
 本来の静寂にもどる。
 安らかな寝息につつまれてうとうと不認識の淵に沈む心地に酔いしれていると、俄然、それもいきなり、
「〇〇番 奥飛騨慕情」 
 と名乗り、

「風の噂に一人きてェ~
  ゆのかこいしいィ~奥飛騨路ィ~
 みィ~ずのながれもォそのままにィ~
  きみはいで湯のネオン花ァ~
 ああァ~おくひだに雨がふるウゥ~
  ムニャムニャ・・・」

 朗々と、哀調歌をさも楽しそうに歌いだしたことである。
 すっかり目がさめてしまった。
 他のベットは水をうったように、シ~ンとした。
 ライオンも目立て職人も現世に戻って聞き耳を立てているにちがいない。
 夜中の、のど自慢大会に聞き惚れているのか、それとも毒気をぬかれたのか。
 昼間は熊のパパさんのようなその人なのに不認識の寝言もここにいたればなんとやら、天晴れではないか。
 だけど、人は見かけによらぬわい。

 次の日、誰が如何したのか、熊のパパさんはナースセンターに呼ばれ、同室のみなさんに挨拶してどこか違う部屋にベットを伴に運ばれていった。
 罪(?)を承知していない、実に晴れやかな顔であった。
 

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