昆虫の世界の話。
 一時期、この世界の宰相についたキリギリスは苦労知らずに育ち、外界の空気に触れると思うさま毀誉褒貶、朝礼暮改をくりかえし昆虫の民意をもてあそんで飛び跳ねていた。カブトムシ、タマムシ、アリなどなど、あまりにも浅はかなキリギリスの言動に、どうも可笑しいんじゃないか、あれに宰相をまかせたらこの昆虫世界は生物の分類から蔑視され爪弾きされるんじゃないかと騒ぎ出し、ぬかるみに嵌ってみてさすがに自覚したのか、ついに宰相の座を放り出した。次の昆虫議会代議員選挙には立候補しないとも明言したのである。これは肝の据わった発言だった、これだけをとらまえれば千両役者である。
 ところが、後継宰相選挙でコウロギを推したのにもかかわらず、一方の候補者カマキリから共に集散離合をしてきた仲間じゃないかと、鎌をふりかざれて迫られるといとも簡単にカマキリ候補の軍門に下ったのである。いうことに欠いて「カマキリさんに昔お世話になったから」とは、とほほ・・、まことにお粗末きわまる理由を、その程度を図りもできずに公表するにいたっては多くの昆虫は唖然とした。
 かくて、コウロギが勝利した。
 コウロギとカマキリの間にしこりが残ったのは自然の理。
 眼に油膜がついて世間がよく見えなくなったのに、キリギリスはおこがましくも両者の手を握らそうと跳び交った。これはコウロギが、虚像の手にのるはずがなく子供の使い走りに終わった。
 余命つきたりと思っていたら、外遊途上、ここにきてなんとまあ、代議員不出馬を撤回するコメントを発表、したもんだ。
 
 昆虫の世界は、キリギリスのようなペチカの燃える窓の中でピアノを弾いていては繁栄しない、寒い窓の外で勤勉に働いているアリの苦労をわが身のことと思う統治であらねばならない、そうでないかえ皆の衆。

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