謡曲「和布刈」と和刈神事
”ここ和布刈神社では、毎年12月晦日寅の刻(午前4時)に神官が海中に入って水底の和布を刈り、神前に供える神事がある。
 今日はその当日なので、神職の者がその用意をしていると、漁翁(竜神)と海士女(天女)とが神前に参り「海底の波風の荒い時でも、和布刈神事の時には竜神が平坦な海路をお作りなさるから出来るのである」と神徳をたたえて立ち去った。
 やがて竜女が現れて舞い、沖から竜神も現れて波を退け、海底は平穏になった。
 神主が海に入って和布を刈り終わると波は元の如くになり、竜神は竜宮に飛んで入る。神前にお供えの後最も早い方法で朝廷へ奉じられた。史実に現れたのが元明天皇和銅3年ですので、それ以前神社創建時よりお供えとして用うる為神事が行われていたと思われます”
                         謡曲史跡保存会

 これは和布刈の神事について謡曲側から説明している公表文章である。

 神事は旧正月の晦日に行われるので、今は神事の時ではないが是非この神秘に満ちた場所を確認しておきたかったので、タクシーを拾い門司港駅から東へ走ってもらった。運転手と雑談していているうちに忽ち到着した。料金800円の距離である。
 海峡の東口、すなわち周防灘がうかがえる所で、海峡に突き出た小高くてさして広くない台地に和布刈神社は建立されていた。
 海峡の一番狭い位置にある。向かいは馬関、壇ノ浦だ。
 陸に近い域は比較的穏やかに流れている海潮も、中央域は轟々と白馬を飛ばしていて周防灘にへ流れ込み瀬戸内海と豊後水道に分流している光景を眼にしていると、神社特有のあのケバケバしさは豪快さに包容されて、イヤ味が消え、見た事もない竜宮もさもありなんなどと、彷彿させるから不思議な自然融解な場所でもある。
 僅かな坂を下って境内に立ち入った。真上に高速道関門橋が架かっている。
 神職や巫女の人はまったく見受けられず新年初詣を迎えるためのテントが境内を占拠していて、徘徊しているのは私のようなカメラを担いだ観光客ばかりだ。
 ジーパンの足をブーツに突っ込んでダウンジャケットにリュックを負い、バシャバシャ撮影ばかりしている、野球帽の両鬢に白髪をのぞかせる老人はちょっと目立つ格好だと、わが身を自覚させられた。
 境内の先は拝殿の西横にあたる。正面は海峡をのぞんで建ち、左橋に鳥居、足許の石段は段々と海に沈んで洗われていた。その先の海中に大きな沈岩が見える。
 和布刈神事は此処で行われる。
 小倉生まれの作家・松本清張は[時間の習俗]の冒頭でこの神事の由縁や神事状況を詳細に記述し物語に取り込んでいるので、その一節をつまんで説明に替える。 
[神主たちは、巨大な竹筒の篝火を先頭に、狩衣の袖をまくり、裾をからげて、石段を降りてゆく。数千人の黒い観衆が、篝火に浮ぶ神主の姿に眼を集めていた。
 赤い篝火に浮んだ禰宜の姿は石段から棚になっている岩礁の上に降りた。海水は神主たちの膝まで没する。見ている者が寒くなるくらいである。]
 
 関心のある方は一読をお勧めしておきたい。
 おどろいたことに、拝殿の前で投げ釣りしている人が3人いた。小さなバケツを覗くと小魚が3匹ほどいる。上からはなんの魚か不明。問うとめんどくさそうにアブラメと教えてくれた。
 建物の東側に廻ると松本清張の碑文があり、神殿の背後はこれまた巨大な岩が本殿を飲み込みそうに鎮座していた。

HP山野草探訪撮
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