−−目に青葉 山ホトトギス 初鰹ーー
    【岡山県立森林公園ー2004、5,1】

 岡山市近郊の稜線は濃い緑に化粧しているのに、奥津域に入ると初々しい若緑がまるで水彩画のように展開している。いまだに芽吹きをしている木々は、羽化して間もない蝶が薄茶の羽を乾かしている姿に見えてならない。
 
 GW初日で森林浴の賑わいを予想していたが、さほどの人混みではなかった。まずは管理棟に立ち寄り、今咲いていて見られる花の確認し、園内に踏み入る。
 いたるところで【ザゼンソウ】(サトイモ科)の葉は大きく育ち仏炎苞は朽ちており、もはや役目を終えていた風情だった。
 マユミ園の東を流れる沢縁では【ハシリドコロ】(ナス科)の花が見られる。暗紅紫の花弁は鮮やかな葉の色に比べて、あくまでも地味でいわくありげな姿。よくよく見ないと見過ごしてしまう花。
 根っこを口にすると走しりまわってバタンと倒れる、といわれるとんでもない毒性植物でもあり、そういえば、色具合からして江戸城大奥の陰湿さを思い浮かべたのは、少々小説の読みすぎか、はてまた妄想か。ハシリドコロには申し訳ない想像をしてしまったようだ。花を観賞するかぎりは良い対象になる。
 【ヤマエンゴサク】(ケシ科)の咲きみだれの中に【キクザキイチゲ】(キンポウゲ科)がポツンと咲いていた。
 【ミズバショウ】(サトイモ科)も数株を残すのみ。板橋を歩く人は疎らだ。
 湿原の【リュウキンカ】(コンポウゲ科)にはさすが人たかりができる。黄金色の花弁は陽を浴びるとひちきわ輝く。道きわの花には縁の白いヤツレが見える。蜜集めに余念のない蜂を追ってアングルを移動させてみたがうまくいかなかった。カメラ三脚を据えた老夫婦は長期戦でシャッターチャンスを狙っていた。
 路傍に3m余りの木が白い花を咲かせていた。【ヤマナシ】である。
 この辺りから見返りの唐松林を眺めるのが抜群に良い。どこまでも垂直に伸びて青空を突き、凛としているのがいい。芽吹き、若葉、冬枯れ・・のいずれの姿でも、眺める者の心を慰撫してくれる。
 中央園路からもみじ滝までの山際や沢際にいろんな山野草に出会える。
             
               ☆
 ▲【ミヤマカタバミ(カタバミ科)】
おおかたが葉も花傘をすぼめた形。午後日当たりとともに広げる。
 ▲【ボタンネコノメ(ユキノシタ科)】
沢際の湿ったところを探すと容易に見つけることができる。花そのものは地味だが、ほう葉、と呼ばれる黄色い葉が見事で闇を照らすように光る。あれば群生している。
 ▲【サンインシロカネソウ(キンポウゲ科)】
沢、谷のしぶきが掛かる岩などに自生している。日本海側の植物なので、ここらあたりが南限かなと思う。薄黄の花弁に暗赤色のガクがついて可愛らしいく、丈が低いのに俯いて咲くから被写体になりにくく、見上げる岩にでもあれば濡れを覚悟で足を踏み入れてシャッターをおしたくなる。上から形だけをみればアカモノに似て非ずである。
 ▲【コチヤルメルソウ(ユキノシタ科】
水際でお馴染みの花。腰をかがめて水面を背景にするとよく見える。一つ発見するとあちこちに群生しているのがわかる。ホンにあなたは忍者のような者・・とつぶやきたくなる。
 ▲【エンレイソウ(ユリ科)】
がらにもなく大きな葉を3枚もつけて・・と言われそうな花。中央の茶褐色のガクが花弁と間違われる。林の中に群生している。
 ▲【スミレ各種】
             
                ☆

 もみじ滝の橋を渡らずに右に行くと千軒平(1090m)へ登る。滝の前で息を入れて左手の道を行く。きたけ峰(1108m)方向で森林公園の最高峰を目指す。行程は変幻に富みアップダウンを繰り返して等高線を稼ぐ。丸太の階段あり、ブナの根が走る傾斜があり、横断あり、急勾配あり・・で、こまめに息をつぎながら、最後尾をたどり、各ポイントで皆さんに待ってもらいながらやっと高峰をきわめることができた。
 術後、初めての登峰である。体の疲れを感じなかったのは最高の喜び。足腰の弱化はいたし方がない。かってのバネが完全に失われたのを実感したのでこれからはこのペースを基礎にして行程を組み立てねばならないだろうと考える。
 ここから途中、もみじ滝に下りるものの、しばらくは千軒平の方向に稜線をアップダウンしながら漕ぐ。よく管理された広い道の両側に根曲がり竹が鬱蒼と繁る。森林公園の稜線はすべて鳥取県との県境線である。
 200mぐらいの処、稜線の大きな瘤を越えると、行く手の下り斜面に、白い花をつけた山野草の群れを見ることができた。
 これが今日一番のお目当ての花、【サンカヨウ】(メギ科)である。
 茎が立ち、柔らかくて切れ込みのある大きな葉をつけて、2枚ある葉の上葉の元から枝茎を伸ばして花輪を数個、よせあつめたように純白に咲いていた。幽閉とは言わないが、深山に分け入らないとお目にかかれない山野草である。折から陽光がさんざんと降りかかり、被写体としての白い花弁が周囲に溶け込んで不明瞭になりはしないかと、リュツクを放り投げて腹ばいになり、アングルを変えたり、影をつくったりして撮影に没頭することだった。 ときおり通りすがる登山者が、転げまわってカメラを構えている4人を不思議な面持ちをみせて過ぎていく。師匠によると今年は昨年より少ないそうだ。それでもこれだけの群生に出会えるのは感激もの。いつか又会える、ほどの体力の余裕がなくなっているので、焦るように写す。

 目の前の高山は津黒山だろうか、湯岳だろうか。屏風のように立つ中国山脈の連峰にガスがかかり始め、風に乗っての流れは肉眼でもとらえることができる。10数m先のブナ林に煙立ちに似て、幹の間を縫って流れてくるガスの尻尾を久しぶりに懐かしく目線で追うことであった。

 帰途、津黒への広域林道を走り、西羽出に抜ける途中、【オオイワカガミ】(イワウメ科)をカメラに収めることができたので望外の探訪撮になった。

 

 

 
 
 

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